變化のはなし

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#006 企業版ふるさと納税が「お金」から「人」に変わるとき

2026.06.17

こんにちは、野田知寛です。
皆さんは、「ふるさと納税」という言葉を聞いたとき、何を思い浮かべるでしょうか。多くの方は、返礼品のお肉やお米、果物をイメージされるかもしれません。ただ、今日お話ししたいのは、個人のふるさと納税ではなく、「企業版ふるさと納税」という、もうひとつの仕組みです。しかもそのなかでも、最近とくに注目を集めている「人材派遣型」という、少し聞き慣れない形について触れたいと思います。

企業版ふるさと納税は、2016年に始まりました。企業が地方自治体の地方創生事業に寄附を行うと、最大約9割の税軽減を受けられる制度です。開始当初はまだ認知度も低く、利用する企業も限られていましたが、2020年の税制改正で控除割合が大幅に引き上げられたことを契機に、状況は一変しました。令和6年度(2024年度)の寄附総額は631億円、寄附件数は約1万8,500件、寄附企業数は8,464社。いずれも前年比約1.3倍の伸びを見せ、寄附を受け入れた自治体は1,590団体と、全国の自治体のおよそ95%に達しました。もはや一部の先進的な取り組みではなく、全国規模のインフラになりつつあります。

伸長の背景には、単なる節税という動機だけではなく、企業がESGやSDGsの文脈で「地域との共創」を戦略的に位置づけるようになったことがあります。大和ハウスが兵庫県三木市の団地再生事業に10億円を寄附した事例のように、自社の事業とリンクさせた戦略的寄附も増えてきました。企業と地域の関係が、「支援する側・される側」から「共に未来を描くパートナー」へと変わりつつあるのです。

そして、ここからが今日の本題です。2020年10月、この企業版ふるさと納税の枠組みのなかに、「人材派遣型」という新しい仕組みが創設されました。これは、企業が自社の社員を地方自治体に派遣し、その人件費を寄附として扱うことで、通常の金銭寄附と同じく最大約9割の税軽減を受けられる制度です。つまり、企業にとっての実質負担は約1割。企業人が長年培ってきた専門知識や経験を持って地域に入り、地方創生の現場で力を発揮する。その費用の大部分を、国が税制を通じて支えてくれる仕組みなのです。

令和6年度時点で、累計157名が派遣され、116の自治体が活用しています。前年の98件から約1.2倍の伸びです。たとえば、リコージャパンのSEが奈良県葛城市に派遣され、住民向けサービスや庁内業務のアプリを15本も開発し、大臣表彰を受けた事例があります。第一生命保険は、長野県や長崎県、愛知県など複数の自治体に社員を派遣し、移住推進や健康づくりの事業に貢献しています。金銭だけでは築けない、人と人のつながりが、制度を通じて生まれているのです。

この制度が注目される理由は、もう一つあります。企業人のセカンドキャリアとしての可能性です。内閣府の担当者も「大企業においてはシニア層の知見の活用法を模索しているところが多く、人材が不足している自治体とマッチングする機会は多い」と語っています。長年企業で培った営業力、企画力、マネジメント力。それらは都市のオフィスだけでなく、地域の現場でこそ輝く場面があります。派遣された社員にとっては、限られたリソースのなかで多様な関係者と向き合い、前例のない課題に挑む経験が、リーダーシップや課題発見力を磨く機会になります。そして派遣を終えた後も、地域との関係は続いていきます。

令和7年度の税制改正により、この制度は令和9年度末(2028年3月31日)まで延長されることが確定しました。さらに、「副業タイプ」という新しい形態も加わり、フルタイムで常駐しなくても、週数日やリモートを組み合わせた柔軟な関わり方が可能になっています。

お金を届ける制度から、人を届ける制度へ。企業版ふるさと納税は、静かに、しかし確実にその姿を変えています。地方創生というと、どこか遠い政策の話に聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。一人の企業人が地域に入り、その土地の人と一緒に汗をかき、何かを動かしていく。その積み重ねが、企業と地域の間に新しい関係を編み上げていく。「人を届ける」ということの意味を、私たちはもう少し深く考えてみてもいいのかもしれません。

次回は、カークパトリックモデルを超える人財育成についてです。それでは、またこの場で。

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