こんにちは、野田知寛です。先日、ITプレナーズの創業20周年をお祝いする機会がありました。ご存じの方も多いかと思いますが、ITプレナーズは、企業の「ITを使える人材」を育てるというより、AgileやDevOps、スクラムといったITを起点に組織や仕事の進め方そのものを変えられる人材を育てる会社です。お祝いの席ですから昔話もたくさん出ましたし、業界の変化やこれからの話もありました。そんな中で自然と、AI×マネジメント×DevOpsの話題になりました。今日はそんなお話です。
生産性は上がっている。なのに成果は伸びない
生成AIによって仕事の生産性が上がったことに異論を挟む人はもういないと思います。資料は以前よりも素早く作れるようになり、調査や分析もほぼ瞬時に済むようになりました。プログラム開発の世界ではその変化はさらに大きいのでしょう。ただ一方で、これだけ劇的な変化が起きている割に、企業の売上や利益、事業成長率が同じ割合で伸びているかと言われるとまったくまったくそうではありません。営業は以前よりたくさんの提案書を作れるようになり、開発者はより多くのコードを書けるようになったのに組織全体の成果はそこまで変わっていない。むしろCopilotやChatGPTといった計算資源への投資は増えていますから、ROIは悪くなっているかもしれません。もしそうだとすると、私たちが改善できているのは、今のところ成果物を作る工程だけなのかもしれません。
ボトルネックは移動する
岡本さんとの話がDevOpsやTOCの方向に向かったのも、たぶんこの辺りに理由があります。提案書を書く時間が半分になっても商談数が変わらなければ売上は大きく変わりませんし、コードを書く速度が上がってもデプロイされなければ事業は伸びません。生成AIによって成果物を作る工程の制約は小さくなりましたが、その瞬間に別の制約が目立ち始めただけなのかもしれません。リード獲得なのか、商品企画なのか、意思決定なのかは会社によって違うのでしょうが、少なくともボトルネックは消えていない。場所を変えただけです。そして、組織全体の流れの中でどこが制約になっているのかを見続けるという考え方は、まさにDevOpsやTOCがずっと扱ってきたテーマでもあります。
マネージャの仕事は何だったのか
そう考えると、マネージャの仕事もあまり変わっていないような気がします。部下の生産性を上げることではなく、組織全体の成果を上げること。そのために、どこが流れを止めているのかを見つけて解消することです。ただ現実には、会議や評価や採用や1on1に追われ、その上で日々のタスク管理まで抱えているので、気づけば目の前の仕事を回すことに時間の大半を使ってしまいます。本来見るべきだった組織全体の流れや、どこが成果を止めているのかを考える時間は後回しになりがちです。しかし、生成AIによって個々人の生産性が上がり、しかもそこに相応の計算資源を投じているにもかかわらず成果が伸びないのであれば、「もっと頑張れ」でも「もっと効率化しろ」でも説明がつかなくなります。そうなると問われるのは、組織全体のどこが制約になっているのか、その制約をどう解消するのかという話になり、結局マネージャは本来の仕事に向き合わざるを得なくなるわけです。
AIによって管理職はさぼれなくなる
以前は、成果が出ない理由を説明するのもそれほど難しくありませんでした。提案書作成に時間がかかる、開発リソースが足りない、人手が足りない。実際にそうでした。ただ、生成AIによって個人の生産性が上がり続けると、その説明は通用しません。しかも企業は生成AIという計算資源にお金を払っています。経営から見れば、その投資に見合う成果を求めるのは当然です。そのとき問われるのは、部下がどれだけ頑張っているかではなく、組織全体のどこがボトルネックになっているのか、次に何を改善すべきなのかという話になります。生成AIによって管理職の仕事が変わると言われますが、むしろ逆で、本来やるべき仕事だけが残ったということなのかもしれません。忙しいふりをする余地が少なくなるという意味では、管理職はますますさぼれなくなるのでしょう。
岡本さんとの話から始まって、気づけばTOCや、その考え方を題材にした『ザ・ゴール』の話に行き着いていました。生成AIについて考えていたはずなのに、結局は組織の流れや制約をどう見るかという、ずいぶん昔からある話に戻った気がして、自分自身が何も成長していないなと笑ってしまいました。今なら当時とは少し違う読み方ができそうなので、久しぶりに本棚から引っ張り出してみようと思っています。
次回は、IP悪用とAIの攻防戦についてです。それではまたこの場で会いましょう。