變化のはなし

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#002 見えなかった混乱を、可視化する ~手荷物カート管理から始まる空港 DX の現実

2026.04.15

こんにちは。チェンジの野田知寛です。
皆さんは、「ポテンヒット」という言葉を御存じでしょうか。「ポテンヒット」とは、もともと野球用語で内野手と外野手の間に打球が落ち、守備側が処理しきれなかったヒットを意味します。ビジネスにおいては、「誰がやるのかわからないまま放置されている仕事」のことを指したりしますが、人で溢れかえる空港の「ポテンヒット」をデジタルの力でもって解決したという、今日はそんな変化のはなしです。

空港という場所は、常に「想定外」が起き続ける場所です。天候の急変、フライトの遅延や欠航、複雑な乗り継ぎ、言語や文化の違い、そして大量の人と荷物。特に近年は訪日外国人の急増によって、空港の景色は以前とは明らかに変わってきています。コロナ禍の期間を除けば訪日外国人数は右肩上がりで、2025年には 4,200万人を超え、政治的な影響を一部受けつつも2026年に入っても増加傾向です。空港に行けば、通路には大きなスーツケースが行き交い、人の流れは複雑に絡まり合い、航空会社の方々が懸命にハンドリングされている様子を目の当たりにするでしょう。

こうした環境の中で、意外なほど大きな課題として浮かび上がってきたのが「手荷物カート」の存在です。特に、長い期間にわたって滞在することの多い訪日観光客にとって、大きな荷物を載せるためのカートは欠かせない設備の一つです。しかし、いざ必要なときに限って見当たらない。どのフロアに何台あるのかが分からず、カートを探して到着ロビーを行き来する光景も珍しくありません。

この問題に直面していたのは、観光客だけではありません。航空会社の職員にとっても、カート不足は現場業務に直接影響します。カートが足りないことで案内や誘導に時間を取られ、本来注力すべき搭乗手続きや顧客対応が滞ってしまう。結果として、現場の負担がじわじわと増えてしまうそうです。一見すると単純な運用上の問題にも見えますが、実はこの背景には構造的な難しさが。航空会社からすると、カートは空港全体の設備であり、空港管理会社が把握・管理すべきものという意識がある。一方、空港管理会社の立場から見ると、日常的にカートを使い、困っているのは航空会社の現場であり、細かな運用まで踏み込むのは難しいという感覚もある。どちらの言い分も間違っているわけではありません。しかしその結果として、誰も全体を把握していない、まさに「ポテンヒット」が転がっていたのです。

日頃、協力し合う組織同士ですが、こういった小さな「ポテンヒット」が積み重なるとなかなかどうしてフラストレーションが溜まるのも不思議ではありません。その状況を変えたのが、デジタルの力でした。空港内に点在するカートの位置情報を可視化することで、どのフロアに何台のカートがあるのかをリアルタイムで把握できるようになりました。これにより、現場でカートを探し回る必要はなくなり、特定のエリアで不足が予測される場合には、事前に回収や再配置を行うことが可能になったのです。責任の所在がはっきりしなかった業務から、「今、何が起きているか」を関係者が把握できる状態へと変わり、見えなかった情報が見えるようになったことで、現場の担い手が能動的に判断し、行動するという変化が起きたということでした。

その結果、観光客は必要なときにスムーズにカートを利用できるようになり、航空会社の職員は余計な対応に追われることなく本来の業務に集中できるようになったようです。 また、空港管理会社にとっても、場当たり的な対応ではなく、全体最適の視点で現場を支える役割を果たせるようになったと。

特別な業務を増やしたわけではない。 ただ、これまで見えていなかったものが見えるようになっただけで、三者の関係性は静かに、しかし確実に変わりました。空港業務の大変さは、派手なトラブルよりも、こうした「小さく、しかし確実に現場を疲弊させる問題」にあるのかもしれません。この事例は、テクノロジーが劇的な変革をもたらしたという話ではなく、むしろ、現場に散らばっていた違和感を丁寧に拾い上げ、解決の術を考え抜いた結果だと思います。そして、このような小さな改善の積み重ねこそが、観光大国への発展を支える現場のおもてなしなのだろうとも。

次回は、100億宣言の突破口としての M&A についてです。それでは、またこの場で。

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