インタビュー

創業150年の建設業が取り組む、社員の自主性を尊重したデジタル人材育成

株式会社鴻池組様

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(右から二番目)橋本諭様 鴻池組 デジタル戦略室 デジタル戦略部 部長
(右から一番目)岸本悟様 鴻池組 デジタル戦略室 デジタル戦略部 デジタル戦略課 課長代理
(左から二番目)大平祐輔 株式会社ディジタルグロースアカデミア
(左から一番目)大庭奈波 株式会社ディジタルグロースアカデミア

株式会社鴻池組では、デジタル活用への意識付けのための動画コンテンツを開発しました。デジタルを活用し、全社員を巻き込んだ生産性向上の実現のために、どのような教育施策に取り組まれているのでしょうか。今回は、鴻池組 デジタル戦略室 デジタル戦略部の橋本様・岸本様に、同社の目指すデジタル人材育成や、開発された動画について、ディジタルグロースアカデミア(チェンジホールディングス)の大平と大庭がお話を伺いました。

鴻池組様ではどのようなデジタルの活用を推進されているのでしょうか?

岸本様:優先的に着手している事として、建設現場の社員の負担を減らし、協力会社との困りごとを解消するような、生産性を高めるためのデジタル活用に着手しています。

橋本様:まずは負担軽減など、目先の生産性を上げていくべきですが、その先の価値をどう生み出していくかが重要で、それこそがデジタル活用の効果であると言えます。ただし、どのような価値を生み出していくかを、我々デジタル戦略部が一方的に示したくはありません。社員から「このようなことができないか」といったデジタル活用に関する意見が発せられ、自然と話題に上がるような社風を築いていきたいです。

大 庭:会社として一つの方針をトップダウンで進めるだけでなく、社員の皆様方の意見もしっかり吸い上げながら今後の方向性を作り上げていくのですね。

橋本様:ええ、社員から自主的にデジタル活用に関する意見をあげてくれることを目指していきたいですね。現在は、「こういうツールを使いたい」という意見は上がっていますが、より価値を生み出すことに繋がるような、先進的な技術の活用に関する意見なども挙げられてくるような組織を目指しています。

御社が今回デジタル人材育成に取り組まれた背景やきっかけについて教えてください。

岸本様:当社としてのデジタル推進を進めるために、デジタルについての議論ができる人を増やしていく事を目指しています。その最初の一歩を後押しするため、今回の取り組みを始めました。デジタル関連のツールを導入しても、現場で活用していただく事が難しい場合があります。一部の現場の方からは、「自分はツールを使って生産性を高めたいが、周囲に乗り気でない方がおり、十分に活用できていない」という声もお聞きしています。そうした現場における意識のギャップを埋めていきたいですね。

大 庭:なぜそのような意識のギャップが生まれてしまうのでしょうか?

橋本様:「現場が滞りなく動いているようであれば、仕事の仕方を変える必要が無い」という認識なのです。我々としては現状を否定したい訳ではなく、デジタルを使えばもっとスムーズに仕事でき、デジタルを効果的に使えば価値を生み出すことにも力を割けますよ、ということを伝えたいのです。しかし、どうしても伝わらず、「今のままでいい、問題ないのだから」という考えの方もまだまだいらっしゃいます。

岸本様:一部の若手社員が新しいデジタルの取り組みを上司に提案し、デジタルが苦手なことを理由に聞き入れられない、ということもあったと聞きます。「今のままでいい」という意識は全員が変え、全員でデジタル活用に取り組んでいく必要性を感じます。

橋本様:こうした話をすると、年配の方と若手の方の対立構造と思われがちですが、実情は世代の問題ではなく人それぞれの問題でもあります。特定の年代の方を否定するのではなく、全員の意識を変えていきたいと思っています。

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橋本諭様

今回、デジタル人材育成の動画を開発するにあたり、チェンジ/ディジタルグロースアカデミアを選定いただいた理由は何でしょうか?

岸本様:業界の横のつながりの中で、数社から御社のお話をお伺いし、お話をさせて頂きました。他の会社さんとも比較検討させて頂きましたが、「こういうパッケージがあります」というご提案を受けることが多かった一方、御社からは当社の社風に合わせて一緒に作っていきましょう、というご提案を頂きました。当社の風土を理解していただいた上で教育コンテンツを作っていただけることが決定打となり、選定しました。

橋本様:当社の社風と似ていると感じている同業他社さんも、御社と一緒にコンテンツを開発されていたので、当社にも合うかと思ったことも理由の一つです。同業他社から話を伺っている中で、御社を非常に強くお勧めしていただきました。既存顧客から強く推奨されるというのは、御社を於いて他にありませんでした。

今回開発されたコンテンツはどのような内容なのか、教えてください。

岸本様:デジタルの勘所を社員全員に腹落ちさせ、気づきを得て、意識を変えて頂く事を目指し、今回の動画コンテンツを開発しました。そのため、いきなりツールの使い方を説明するものではなく、「デジタルを使ったらこのように便利になり、そのためのデジタルツールにはこのような種類がある」といったメッセージの伝え方をしています。アバターを使ったアニメーション動画で、建設現場など社員がよく目にする光景を落とし込み、「自社や自分のことを言っているんだな」ということを分かってもらえるよう心がけています。

橋本様:ツールの使い方といった動画やマニュアルはこれまでも作成してきましたが、その手前の意識付けの内容やアニメーションの形式は初めての取り組みです。やらされ感で視聴するのではなく、アニメーションによる建設現場など身近な風景なども見ながら、少しでも楽しく視聴してくれることを狙っています。強制して見せたところで伝わるものが無いため、自主的に見てもらい、徐々に効果が広がっていく事を期待しています。

大 平:動画内で取り上げているツールは、実際に御社で導入しているものを取り上げているのでしょうか。

岸本様:ええ、CADや設計のツールなどの専門的なツールではなくて、全社員が使うようなチャット・Web会議といったコミュニケーションツールや、クラウドストレージなどの全員が使うことで価値が出るツールが対象です。それらのツールの基本的な使い方にも触れており、触ったことが無い人にとっては「触ってみようかな」「自分はデジタル推進の阻害要因になってないかな」と考えてもらうきっかけになるような内容になったと思います。

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岸本悟様

動画を開発する上で、工夫された点はありますか?

岸本様:当社の作業服やヘルメットをアニメーションで表現したり、社長に台詞の音声協力をしていただいたり、本社近くの駅の名前をいれたりと、視聴した方にとっても「これは知ってるぞ」と思っていただける要素を多くいれたことで、自分ごととして捉えて頂けるように工夫しています。

大 平:社長直々に音声の協力していただいたのは驚きで、他の会社さんではなかなか見られません。

橋本様:ありがたいことに、一声掛けると快諾してもらえました。完成した動画も社長にもすべて視聴いただきましたし、内容についてのご意見も多数いただきました。こうした形で社長にも深く関わって頂けたという事で、やはり音声協力をお願いして良かったと思います。

岸本様:先日、動画ポータル上で社長の音声協力風景の写真を公開しました。「社長が声を担当しているのか」という驚きが、未視聴の方の視聴のきっかけになったらよいと思います。

橋本様:さらに、視聴された社員が社長を身近に感じてもらえたら嬉しいですね。社員にも社長を身近に感じてもらう必要があると思います。社長と社員との接点を増やそうと、社長と若手社員とのディスカッションなどを過去に行ったこともあり、この動画も同様に、接点づくりの一助となればと考えています

開発した動画を全社員に公開してみていかがでしたか?

岸本様:作成時は現場の中堅から管理職に刺さる内容を特に想定して作っていました。全社員を対象とする内容ではありつつも、会社の方向性を展開していく中心的役割となる存在の方に一番受講して頂きたい為です。一方で、現場の声をお聞きすると、意外にもベテラン層の視聴が多いようです。

大 平:幅広い対象の方に見ていただきたいところではありますが、まずは中心的役割であるベテラン層の方に多く視聴いただいていることは一つの成果ですね。

岸本様:今回の動画の開発と合わせて、当社で動画ポータルも作成しました。今回の動画を皮切りにして、これからさまざまな動画も併せて配信していく予定です。

橋本様:これを機に、これまでの分厚い紙のマニュアルを読み、学びを得ていた習慣や風土から、動画から知識や学びを得てもらうような習慣へと変わっていくと良いと思っています。

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(左から一番目)橋本諭様、(左から二番目)岸本悟様

企業としての今後や人財育成に関して、今後の展望はいかがでしょうか?

岸本様:今回の動画を見ていただいた社員に、アンケートやヒアリングを行う予定です。その中からデジタルに興味がある方を募り、デジタル推進の核になるような人材を見出して、全社的なデジタルの教育を一緒に推進していきたいと考えています。併せて、会社の方向性を決める経営層に対してもワークショップなどを実施し、社員と経営層を両輪としてデジタル活用を進めていける姿を目指しています。

橋本様:核となる人材には、指名ではなく自主的に来てほしいと思っています。先ほどの動画の視聴についても同じことがいえますが、強引にやらせるのではなく、社員の自主性がなければデジタル化は進みません。そのためにも、まずは今回の動画で意識を醸成し、これからの教育を進めていきたいです。

大 庭:コアになる人材は、ITの得手不得手や、役職や年齢といった特定の条件での選出ではないのですね。

橋本様:そうですね。「興味あるよ」くらいのレベルでいいので得意・不得意関係なく参加してもらいたいですね。固定概念でこれまでの仕事のやり方を踏襲するのではなく、興味をもって色々な選択肢を幅広く視野に入れてもらいたいです。そのためにも、「好き」や「やりたい」という気持ちを優先させたいなと思っています。

岸本様:動画での教育も、手挙げ式の人選も、これまでやったことがないことばかりです。今あるものやこれまでの良いやり方を全て壊したい訳ではありませんが、150年続く会社ですので前例踏襲に陥ってしまうときがあります。デジタルでの失敗と成功を繰り返していくという考え方を取り入れていきたいです。

大 庭:デジタルは失敗をしてもその次に成功すればいい、という特徴があるのに対して、建設業は失敗が許されないという特徴があり、そのギャップも大きいのでしょうか。

橋本様:おっしゃる通りです。デジタルは10のうち9つが失敗しても、1つが成功すればそれが9つの失敗を超える価値をもたらしてくれる可能性がある。その価値観が、建設業の中だとあまり理解してもらえないので、我々がその橋渡しとなれるよう頑張らないといけないですね。

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大庭奈波

チェンジ/ディジタルグロースアカデミアを選んで良かった点があれば教えてください。

岸本様:対応が非常に速かったことです。私がかつてIT企業に業務委託をした際に、営業の方、一次請け、二次請けと複数人を介しており、レスポンスが遅くもどかしさを感じたことがありました。御社は担当の方と直接やり取りをすることができ、レスポンスが速くスムーズに進行できました。また、建設業の事例も多くお持ちのように見受けられ、業界のこともすぐにご理解いただきましたし、専門用語など分からないことがあってもすぐ質問いただき、対話する機会も多く、十分に我々の考えを理解し、動画にも我々の想いを入れていただけたと思います。さらに、動画公開後も、動画の視聴率について相談した際も様々なアドバイスをいただけたので、ノウハウを色々お持ちであると思いました。

橋本様:やはり速さは重要なポイントだと思います。最初に相談してから動画作成の進め方や章構成などの全体像がすぐに出てきて、この流れで進めましょう、と提案していただき、動画も次々に作成いただいたので、非常にパフォーマンスが良かったと思います。動画の中身についても、新しい取り組みではありますが、先進的すぎる技術など、知らない情報ばかりだと刺さりにくいものになるので、適切なレベル感のものを作成していただきました。

大 平:弊社の建設業のデジタル人材育成の実績に加え、御社の専門用語やご状況の認識を合わせ理解して動画を作成したことが、ご評価いただける動画につながったのかもしれませんね。特に意識醸成の教育においては、会社の社風や状況といった要素が、社員の皆様に自分ごと化していただく上では重要ですね。

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(左から一番目)大庭奈波、(左から二番目)大平祐輔
ありがとうございました。
【編集後記】

デジタル人材育成において「社員みんなで取り組む」こと、そして「社員の自主性を重んじること」を非常に大切にされている鴻池組様。これまでの前例踏襲的であった業務プロセスの中で、変化すべきところは大きく変化し、長期的な成果の創出を見据えた教育をスタートされた志が素晴らしいと思いました。建設業の強みである失敗を許さないまじめさも大切にしながら、デジタルの失敗を重ねながら成功していく柔軟さも新たに取り入れ、更なる価値を生み出していただきたいと思います。

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