新卒採用を終え、ひと段落したのも束の間、次は新人教育に頭を悩ませるご担当者も多いのではないでしょうか。多岐にわたる育成項目の中で「コミュニケーション」は重要な育成分野ですが、その中でも“アウトプット力”は特に強化が必要です。そこで本稿では新人にとってアウトプットスキルの強化が必要な背景やその育成ポイントを解説します。
企業が新入社員に求めるスキルは多岐に渡ります。それは学生と社会人で身を置く環境やコミュニティが求めるニーズが異なることに起因します。こちらでは“企業の目線”で企業が社員に求めるスキルと、“新人の目線”で新入社員が直面する環境変化をご紹介します。
厚生労働省が実施した能力開発基本調査では、企業が社員に求める能力として、チームワークやコミュニケーションなどの対人スキル(以下、「コミュニケーション力」とする。)が上位を占めています。
2位には「職種に特有の実践的スキル」がランクインしていますが、これは新入社員が社会人スキルを身につけたのち、次のステップで習得が必要となるスキルです。
企業がその習得を強く求めるコミュニケーション力は、多様な能力開発のベースとなる基礎スキルであるために、新入社員の早期の段階での習得が求められます。
学生から社会人になることで、人間関係の幅は大きく広がります。しかし、社会人は学生時代のように“相手を選ぶ”ことができないため、その違いが新入社員の負担となります。
つまり、“なんとなく”で分かり合える「同世代の気の合う仲間」のコミュニティが、社会人では「多様な関係者(社内、顧客、協業者)や年齢層」のコミュニティに変化するため、新入社員の多くが負担感を覚えます。
このように社会人として求められるスキルの内容が学生時代と大きく乖離する育成項目については、会社が積極的にその習得をフォローする必要があります。
新入社員が身につけるべき能力のうち”コミュニケーション力”の優先度が高いこと、新入社員はコミュニケーション対象の変化に対応することに困難を抱えがちであること、を紹介しました。
コミュニケーション力は大きく“アウトプット”と“インプット”に分けることができます。そのうち多くの新入社員が壁にぶつかるのはアウトプットです。社内でも「新入社員の話が要領を得ない」などの声を耳にしますが、社会人に求められるアウトプットスキルについてご紹介します。
アウトプットスキルは、『アウトプット=”発信”・”生み出すこと”』と『スキル=技術的能力』であり、発信するチカラ、生み出すチカラを指します。ただ発信すれば良いわけでなく、
・相手に正しい(または相手が求める)情報を伝えること ・相手にわかりやすく伝えること ・相手に端的に伝えること ・相手にポジティブな感情で話を聞いてもらうこと ・相手を動かす伝え方をすること |
などに配慮する必要があります。
アウトプットの対義語はインプットであり、これは”受信”や”取り入れること”を指します。インプットについては今回詳しく触れませんが、例えば相手の質問を正確に理解(インプット)しなければ、的確な回答(アウトプット)をすることができないように、コミュニケーションにおいてインプットとアウトプットは互いに強く影響し、表裏の関係となります。
アウトプットスキルの代表例として、こちらでは「話す」と「書く」の2点をご紹介します。
【話す】のメリットとデメリット
Body Languageなどと共に、人間が最古から用いてきたといわれるアウトプットスキルです。“話す”のメリットとデメリットは以下のようにまとめることができます。
【書く】のメリットとデメリット
メリット | デメリット |
---|---|
・素早く伝えることができる ・感情が伝わりやすい ・三人以上の意見交換時の認識合わせがしやすい | ・記録を取りにくい ・正確性の担保のために、復唱など手間がかかる ・関係者の時間が同時的に拘束される |
【書く】のメリットとデメリット
次に、“書く“について、メリットとデメリットをご紹介します。
メリット | デメリット |
---|---|
・記録として残すことができ、証拠性が高い ・正確性が高い ・書き手と読み手が同時に時間拘束されない | ・話すことに比べて時間がかかる ・感情が伝わりにくい ・3人以上での意見交換はやや煩雑になる |
上記の通り、【話す】と【書く】はお互いのメリットでお互いのデメリットを補完しています。両スキルをうまく使い分けることで、コミュニケーションスキルのレベルアップを図ることが可能です。
こちらでは人事、OJTトレーナーや上司など新入社員育成を担う方に、「話す」・「書く」などのアウトプットスキル全般の向上に寄与する3つの指導ポイントをご紹介します。
ポイント:受け手である相手への配慮を重視した発信
■情報を発信する際のマインドセット例
(1)情報の受け手のニーズを理解する(何を知りたいのか) (2)情報の受け手の知識レベルを把握する(話題における知識レベル) (3)情報の受け手の状態を把握する(前後のスケジュール、業務負荷など) |
(3)の「状態」は、特に依頼事項がある際に、依頼量や依頼納期が相手にとって過度な負担にならないか確認する際に役立ちます。
ポイント:積極的な自己開示により、フィードバックを受け、アウトプット力を伸ばす
特にリモートワークの浸透でコミュニケーション機会が減っていること、人事・トレーナー・管理職はハラスメントとの狭間で積極的なコミュニケーションをとりづらい環境にあることを鑑みて、自ら積極的に開示して、フィードバックをもらい、アウトプット力を鍛錬する必要があります。
例えば業務の結果だけでなく、要所要所でそのプロセスも開示してフィードバックを得ることで、1つの業務において多くのインプットを得ることが可能となり、そのインプットから効率的にアウトプットスキルを改善・伸長することができます。
ポイント:アウトプットの目的を確認する習慣を身につける
検索力に優れる新入社員は、インターネットを通じて効率的なアウトプットの方法(How)を見つける力に長けています。しかし、”How”と同等以上に重要な項目が”Why”です。Whyは「アウトプットの目的」と言い換えられます。
例えば、お礼状の作成業務において、誤字があった際は始めから書き直す必要があることを手間だと感じた際に、「手書き」を「ワード作成」に改めること(Howの改善)で、圧倒的な時短と効率性向上を実現することができます。
一方で、お礼状のWhy(目的)に照らした際、「感謝の心を伝えるために手書きは必須であり、その本質は変更するべきではない」という判断もあり得ます。このように、Whyに思考を巡らせて、Whyの下で最適なHowを導き出す視点の育成が必要です。
次にアウトプットスキルの1つである「話す」にフォーカスして、具体的なトレーニング方法をご紹介します。
話したいことが未整理の場合、論理性が曖昧になり、簡明さが失われます。相手に伝わりやすく話をするためには、話す「内容」と「順番」を分けて考えることが重要です。
トレーニングを重ねるうちに、頭の中でこれらを整理することができるようになりますが、慣れないうちはワードや紙に書き出すことがおすすめです。
(1)「相手が知りたいこと」と「自分が伝えたいこと」の要点をまとめます。この2つが
一致している例題が初歩的で序盤のトレーニングに向いています。
例:営業の業務報告
「目標に照らした業務の達成度」「反省点や改善点」「今後の見通し」「相談事項」などが、相手が知りたい、または自分が伝えたいポイントとして挙げられます。これらを紙やワードにまとめて可視化しつつ、それぞれの項目ごとに要点をまとめます。 |
(2)次に要点を支える詳細情報(論拠や具体例など)をまとめます。
(3)最後に、全体の内容が理に叶っているか(要点と詳細の整合性)、を確認します。
内容が固まれば、話す順番を組み立てることで、相手に分かりやすく伝えることができます。話す順番についても、慣れるまでワードや紙に書き出すようにしましょう。
(1)テーマと目的
報告・連絡・相談など、何に関する話かを端的に伝えます。
(2)結論
最も重要な結論を冒頭に発信します。
(3)詳細情報
結論を支える論拠や補足情報を伝えます。
(4)説明の締め、次のステップに向けた確認
結論の再確認、場合によって、役割分担や納期を確認します。
※目的や状況によって、あえて結論を最後に持ってくる方法などもありますが、新入社員においてはまず基本を身につけさせることを優先します。
自分の声を録音して聞くことで、聞き手に与える印象を確認することができます。自分だけでなく、同僚など第三者にフィードバックをもらうことも効果的です。
声の大きさ、話すスピード、抑揚や声のトーンを改善することで、アウトプットスキルを向上させることが可能です。
次に「書く」に焦点を当てて具体的なトレーニング方法をご紹介します。
記録に残るからこそ、「正しい」日本語の使い方に注意し、正しい語彙と文法を使うことが一層重要になります。用語の意味を正しく使う、「てにをは」や尊敬語や謙譲語などを正しく使う、苦手意識のある分野を集中的に確認し、スキルアップを促しましょう。読書も有効な手段の1つです。
また、ネガティブな表現をポジティブに言い換える(例えば、「能力が低いため学ぶ」を「能力向上のために学ぶ 」など)ことも”語彙の使い方”に含まれます。
「話す」スキルと同様に、書く内容とその順番を分けて考えることが重要です。
(1)「相手が知りたいこと」と「自分が伝えたいこと」の要点をまとめます。この2つが
一致している内容が初歩的で序盤のトレーニングに向いています。話すスキルと同様の
ため詳細は割愛します。
(2)次に要点を支える詳細情報(論拠や具体例など)をまとめます。話すスキルと異なり、
文章量が予め読み手に把握されるため、相手の“読む意欲”を削がないように、端的にまとめる、表や図を用いるなど文章だけの表現ではなく、分かりやすく伝えることを心がけることが有効です。
(3)全体を通して話が理に叶っているか(要点と詳細が整合しているか)、誤字脱字が
ないかを確認します。
(1)テーマと目的
報告・連絡・相談は端的に要点を伝える必要があります。
メールは件名で概要を伝えることで、受け手は素早くその目的を把握できます。
(2)結論
最も重要な結論を冒頭に発信します。
(3)詳細情報(論拠)
結論を支える論拠や補足情報を伝えます。
(4)具体例
具体例があれば記載します。ただし、文面だけではなく、図を用いるなどして短くすることを意識します。
(5)説明の締め、次のステップに向けた確認
結論の再確認、場合によって、役割分担や納期を確認します。
上記はPREP法と言われるPoint(結論)、Reason(論拠)、Example(具体例)、Point(結論)により構成される記載順です。そのほかにも、起点、転機、変化、終点をいうストーリー性のある文書構成も「読ませる文章構成」として一般的です。
※目的や状況によって、あえて結論を最後に持ってくる方法などもありますが、新入社員においてはまず基本を身につけさせることを優先します。
本稿は、新人のアウトプット能力の育成ポイントについてご紹介しました。これらのトレーニングを新入社員自身に全て任せることや、人事で用意することは難しいため、アウトソーシングすることで費用対効果を最大化することができます。
弊社では、新入社員の育成において、ビジネスで必要な動作を「聞く・読む・書く・話す」の切り口に分け、なぜ各行動が必要なのか「考えて」動くために必要なビジネス基本動作スキルを育むビジネスコミュニケーション研修をご用意しております。
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