ITやAIといったデジタル技術の進化によって、ビジネスを取り巻く環境が変化しているなか、企業はデジタル技術を活用した価値創造や事業変革にも取り組む必要があります。
企業の新たな価値創出のためにデジタルを利活用するには、DX人材が必要です。しかし、採用市場においてはDX人材が慢性的に不足している傾向にあり、高額な採用費を出せる財力や採用ブランドがない限り、外部から人材を補充するのが難しい状況です。
そこで注目されているのがリスキリングです。
この記事では、リスキリングの実施方法やDX人材に必要なスキルについて解説しますので、ご参考になりましたら幸いです。
経済産業省によると、リスキリングは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。(引用:リスキリングをめぐる内外の状況について)
近年では、デジタル技術の進歩によって必要性が高まる職種に転換するためや、現職種における新業務へ対応するために、新たなスキルを習得させる目的でリスキリングが活用されています。
DX人材育成が必要な理由は、DXを推進する人材が不足しているためです。
IPA「DX白書2023」の調査では、約8割の企業がDX人材の不足を感じています。
企業の成長にデジタル活用が求められているなか、担い手となる人材がいなければDXを推進できません。
すなわち、デジタルを活用する事業戦略に舵を取るとなれば、人材戦略も変化させる必要があります。
例えば、自動車メーカーがスマートモビリティ事業を始めるには、従来の機械工学などの知識に加え、通信ネットワークといった知識が必要です。
通信ネットワークの知識は従業員にとって新しい知識です。就業を継続する傍らで、新しい知識を習得させ、モビリティ事業の担い手に成長してもらう必要があります。企業起点で従業員に業務変化に伴う新しい知識を習得させる取り組みは、まさしくリスキリングです。
つまり、経営戦略を達成させるためにDX人材育成が必要であり、DX人材を育成する手段としてリスキリングが求められています。
リカレント(recurrent)とは「繰り返す」「循環する」という意味で、リカレント教育とは就職したあとに職を離れて再び教育機関で学ぶことをいいます。仕事と教育を繰り返すありようを表す言葉です。
一方リスキリングは、従業員が働きながら新たな知識や技術を習得するプロセスのことをいいます。
どちらも仕事に活かすための学びではありますが、リスキリングは就業継続しながら、かつ企業起点での学びであるという特徴があります。
DX人材育成を行うメリットには、次の3つがあります。
各メリットを詳しく解説します。
DX推進を行える人材を社内で育成すると、採用コストを大幅に抑えられます。
そもそも深刻な人材不足の日本において、DX推進を任せられる人材はさらに希少であり、採用にかかる媒体費や紹介料、給与といった金銭的コストに加えて、時間的コストも高くなります。
さらに、採用した人材が期待通りの働きをしてくれるという保証もありません。
この点、社内でDX人材育成を行うと採用コストはかからず、想定通りの働きをしてくれる可能性も高くなります。
リスキリングが社内に浸透すると、新たな学びに挑戦しようという社員の意欲が高まります。
なぜなら、企業にとって価値創造を行う従業員は重要な人材であり、そうした従業員への待遇は他の従業員に比べてよくなる傾向にあるためです。
アメリカの通信大手であるAT&T社では、2013年にリスキリングプログラムを開始し、2020年までに10万人のリスキリングを行いました。その結果、リスキリングを行った従業員はその他の従業員に比べ、1.1倍高い評価を得、1.7倍の昇進をしています。
リスキリングプログラムを受けた従業員は他の従業員と比べ、離職率が1.6倍低いといったデータも示されています。(リクルートワークス研究所資料より)
このようにリスキリングの結果、待遇が上がり従業員の満足度が高まると、業務へも意欲的になり業績向上につながります。したがって、リスキリングは企業側、従業員側双方にとってメリットのある取り組みといえます。
DX人材育成を行うメリットの3つ目は、外部環境の変化に合わせた事業開発・運営につながるということです。
このメリットは、DX人材を育成する目的そのものです。DX人材を育成すると、そのDX人材をどのように活躍させるかということも同時に検討が進むこととなり、結果としてDX人材育成の目的である、外部環境の変化に対応した事業開発・運営につながります。
近年はデジタル技術開発が進み、これまでは異業種であった企業が突如業界に参入し競合企業のひとつとなることも起きています。デジタル技術の発展は、業界再編に拍車をかけているのです。
DX人材を育成し、デジタル技術を活用した事業開発・運営を推進することで、企業の存続につながります。
DX人材をリスキリングするデメリットは以下の3点です。
それぞれについて説明します。
リスキリングのデメリットとして、外部からDX人材を獲得する場合に比べて、DX人材として一人前になるまで時間を要する点が挙げられます。
当然、未経験から始まり、研修での学習、現場での学習内容発揮を通して、少しずつ仕事の難易度が上がり、それに伴いスキルが磨かれていきますので、一朝一夕でできるようにはなりません。
早期に新規事業戦略を実施しなければならない状況で時間的猶予がない場合は、一定の費用を覚悟して、プロフェッショナルなDX人材を採用することを推奨します。
リスキリングを実施しても思うように学習した内容が定着しなかったり、学習した内容を現場で発揮しなかったり、対象人数が足りなかったり、育てている人材が途中で離職してしまったり、様々失敗に陥る可能性もあり、リスキリングの成功は確約されていません。
そうしたリスクを顕在化しないように、企画時に入念な検討を重ねて、未然に防止しましょう。
リスキリング施策は、現場業務を抱える社員の一部稼働時間をもらい、業務時間内に実施します。
したがって業務量を調整しないと、定時時間内で現場業務が終わらず、負荷をかけてしまいます。
リスキリング対象者の業務の見直しや、サポート体制の構築もあわせて進めましょう。
リスキリングを実施するには、職種ごとに必要なスキルを洗い出すことも有効な手段です。
職種ごとに必要なスキルを洗い出すことで、リスキリングにて習得すべき能力要素や、ラーニングパスが検討できます。
リスキリングの結果どうなってほしいか?どのようなスキルを身に付けてほしいか?という、いわばリスキリング後のゴールから逆算して育成プログラムを整備しましょう。
スキルマップを整備した例として、東京都庁では2022年にデジタル人材育成のためのスキルマップを作成し、職員のスキルの可視化に乗り出しました。
スキルマップ作成にあたっては、IPA(情報処理推進機構)のITSS(ITスキル標準)などを参考に独自の整理を行っています。(参照:#シン・トセイ 都政の構造改革推進チーム(東京都 公式))
こうした例を参考にしながら、企業もリスキリング実施前にスキルマップを作成することをお勧めします。
DXの推進に必要な職種やスキルにはどのようなものがあるのか、経済産業省はDX推進に必要な人材類型として下記5つを提唱しています。
それぞれどのようなスキルが必要か見ていきましょう。
ビジネスアーキテクトとは、DXの目的を設定し関係者間の協働を調整しながら、DXの実現を目指してプロジェクトを推進する役割を指します。
ビジネスアーキテクトとして最も重要なスキルは、ビジネスの戦略やビジネスモデル設計を行える能力です。
そのほか、DX推進の調整役としてコミュニケーション能力が必要になるだけでなく、課題発見力や分析力、論理的な洞察力が求められます。
デザイナーとは、ビジネス視点だけでなくユーザー視点から製品やサービスをとらえ、価値創造や問題解決の手段を考案する人です。
デザイナーに求められるスキルは、顧客やユーザー視点での価値発見力、マーケティング力、ブランディング力、ビジネス戦略策定力などになります。
DX推進にあたって、協働者がユーザー視点から離れないように管理するのもデザイナーの重要な役割です。
DX推進におけるデータサイエンティストの役割は、データを収集したり解析したりする仕組みを設計から運用まで行うことです。
DX推進でのデータサイエンティストは、データ分析にとどまらない幅広い役割が期待されます。
必要なスキルとしては、データを活用したビジネス戦略の策定・仮説検証・実装・運用・効果検証・改善、必要なデータの収集方法や仕組み化の設計・構築・運用、ソフトウェアやサイバーセキュリティに関する技術スキルなどがあります。
IT化やデジタル化の進展により、近年の企業が取り扱うデータ量は膨大です。データを効果的に活用できるか否かは、DXの成功を左右する重大な要素となるため、データサイエンティストの存在は重要になるでしょう。
DX推進の根幹となる、サイバーセキュリティリスク抑制の対策を担うのが、サイバーセキュリティ人材です。
ここでいうサイバーセキュリティ人材は、セキュリティの専門人材ではありません。自社の業務において必要となるセキュリティスキルを習得している、セキュリティを専門としない人材を指します。
情報漏洩などの被害発生を防ぐセキュリティ対策を主導するのが、サイバーセキュリティ人材の主な役割です。
外部の専門家や他の部門との連携も必要となるため、コミュニケーションスキルのほか、DX推進に必要なセキュリティ対策へのスキルが求められます。
ソフトウェアエンジニアは、デジタル技術を活用した製品やサービスを提供するためのシステムやソフトウェアを設計し、実装から運用までを行います。製品やサービスの創出を行う、重要な役割です。
経済産業省がITエンジニアではなく「ソフトウェアエンジニア」と呼称したのは、ソフトウェアエンジニアというニュアンスに、ソフトウェアの要件定義から設計、実装、保守、運用といった幅広い領域や工程に対応できるエンジニアという意味も含まれるからです。
ソフトウェアエンジニアに必要なスキルは、高い技術力のほか、顧客やユーザーのニーズを自ら発掘し理解する姿勢、DX推進を協働する他の職種とのコミュニケーション力、要望やニーズの変化に対応できる柔軟性などがあります。
また、高い技術力の維持や新たな技術の獲得のために、継続的なスキルアップも必要でしょう。
リスキリングを実施し、DX人材を育成する方法は主に次の6つです。
それぞれについて説明します。
リスキリングを実施するにあたり、育成体系の整備が必要です。
自社の事業戦略にとってどういったスキルが必要かを明確にし、そのスキルをどのように習得させるのか具体的な体系づくりを行います。
抽象度が高いままリスキリングを開始すると、必要な人に必要な育成ができていないということが起こります。
スキルマップと照らし合わせながら、育成体系を構築する必要があります。
リスキリングの成功には、リスキリング対象者の理解と前向きな姿勢が必要です。
そのために、事前にリスキリングについて従業員に学習する機会を設けるのも有効な方法といえます。
企業側からの要請だけでは従業員の行動変容は起きにくいため、なぜリスキリングが必要なのか、リスキリングをすることで従業員側にどういったメリットがあるのか、しっかりと説明を行うと実施しやすくなります。
研修プログラムを社内で用意する方法です。
コストを抑えられる反面、研修プログラムの設計や教材を作成しなければならず、非常に手間と時間がかかります。また、講師となる人材の確保も必要です。業務経験に基づいた知見の深さや学習者を巻き込む講義運営力はもちろんのこと、トラブル等のイレギュラー対応もできる講師がいると、研修が成功に格段に近づきます。
外部研修とは、リスキリングに必要な研修の一部を外部機関が実施する研修で賄うという方法です。
DX推進に必要な知識や技術を専門家に教わるので、質の高い教育を効率的に習得できます。
プログラム開発や講師育成、講義運営に工数をかけずに、効果の高い育成を実施できることもポイントです。
eラーニングはオンラインで学習できるシステムです。
場所を選ばずに受講できる利便性や、学習進捗や成績を管理できることから、企業での活用が広がっています。
eラーニングのソフトウェアを利用して社内で学習プログラムを作成する方法や、外部学習プログラムとセットで外部のeラーニングシステムを利用する方法があります。
企業側はリスキリング対象者の学習状況を、eラーニングシステムを通して確認できることや、サービスによっては自社で製作した映像やファイルをeラーニング上にアップロードできることから、効果的なリスキリング推進につながります。
実際の業務を行いながら学ぶのがOJTです。実践で学ぶので、合理的な学習方法といえます。
日本企業は配置転換時のリスキリングをOJTによって行ってきました。
しかし、新規事業の場合経験者が少なく、十分なOJTができるとは限りません。その場合、外部機関からコンサルタントなどを入れ、OJTのメンターを務めてもらうという方法もあります。
DX推進に必要なスキルや、リスキリングでDX人材を育成する方法について説明しました。
DXを推進できる人材は希少であるため、社内人材をリスキリングで育成しようという動きが高まっています。
しかし、リスキリングの導入方法や導入の知見をもつ企業は多くありません。時間やコストを無駄にしないために、リスキリングを外部業者と共同して行う方法もひとつです。
プログラムありきではなく、リスキリングは10社十色ですので、各社必要な療法を受けることが求められます。気軽に相談してみてはいかがでしょうか。
株式会社チェンジは創業から約20年にわたって、デジタル活用コンサルティング・人材育成のノウハウ、グループ、アライアンス先のサービス・技術を組合せて日本企業のDXを支援しています。
この度、これまで培った知識や経験をもとに、DX推進人材を育成するリスキリング支援サービス「リスモア」の提供を開始しました。
企業でのデジタル活用を支援しているチェンジだから行える、現場で活きる研修内容やリスキリングカリキュラムを用意しています。
リスモアでは、DX人材を育成するにあたり、次の5つのステップにおいてご支援可能です。
一気通貫・部分的にご支援できます。お気軽にお問い合わせください。
これまでチェンジがリスキリングをご支援した事例を、2社紹介いたします。
KDDI株式会社ビジネスデザイン本部さまでは、旧来のソリューション営業に加え、DX提案を行ううえで知識習得が必要となりご相談をいただきました。
社員の皆さまがお客さまへDX提案ができることが目的であるため、社員のステージに合わせたリスキリングカリキュラムとなるよう設計しています。
社員の皆さまからは「講師の経験に基づいた具体的なフィードバックがわかりやすく、新しい学びとなり現場で実践できている」というお声をいただいております。
SMBCグループ内約5万人の従業員を対象とする、デジタル変革学習プログラム制作のご支援をいたしました。
ご支援内容は、人材タイプの定義からコンテンツ開発、ワークショップの実施など人材育成プログラム全般です。
ご担当者さまからは、「SMBCのお客さまを見据えたご提案だったので、一緒にパートナーとして教育施策を考えていけるのではないかと感じた」というお言葉をいただきました。
チェンジでは各企業さまに合わせた、人材育成に関わるサービスをワンストップで提供いたします。
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